── 当社のサービスをご利用いただいたきっかけは?
稲水さん:研究内容の一環として、オフィスにおけるフリーアドレス制の有効性を検証するために、オフィスでの人の動きをモデル化しようと試みたことがありまして。その時に、モデル化するのであればデータをしっかり取得して細かく分析したほうがいいだろう、ということで、大手オフィス家具メーカーの方にトリノ・ガーデンさんをご紹介していただいたという流れでしたね。
トリノ・ガーデンさんの取組みを聞いて、これは面白いな、と思いました。
というのも、私自身もポスドクになったぐらいのタイミングで、自動車メーカーの工場へ赴いて、そこでグループリーダーの動作をビデオで追いかけて行動分析をして論文を書いたことがあったんです。これがめちゃくちゃ大変で。
とは言え、時間分析をちゃんとしようと思ったらアンケート調査やインタビュー調査ではなくて現場でしっかりデータを取って分析するというのが必要になるわけです。そこから得られる知見は膨大なので。これを専門にされている企業があるというのは大変でしょうけど、面白いし、他に類を見ないなと感じました。
行動を細かく、多角的に分解する。粒度の細かさと角度の多彩さ
── 実際にプロジェクトが始まってからの印象は?
稲水さん:あるオフィスで、フリーアドレス制を導入するための改装をしたんですが、その改装前後で働く人たちの動作や感情がどう変化したかということを一緒に調査していただきました。
まず私が驚いた点は、データの分解粒度です。オフィスの中で人がどのような行動するか、という膨大なデータを取って、その上でそれらの行動を分解していったんですが、この分解が、プロジェクトが進むにつれてどんどん精査されて細かくなっていって。
「こんなデータまで取れるのか」と驚いた記憶がありますね。
たとえば「電話をする」という一つの行動をとっても、それが「着信」なのか、「発信」なのか、「会話中にPC画面を操作」したかどうか、あるいは「立って会話」していたのか、「座って会話」していたのか。
その分解の細かさもさることながら、そんな分け方があるんだ、ということは新たな発見でした。
机上ではなく現地の行動観察から結論を導き出す
── オフィスの研究というのはわれわれにとっても新しいテーマでした。
稲水さん:オフィス研究というのはそもそも、「アンケート調査とか満足度調査しました」ということが多く、行動を調査しづらい分野なんですね。
仕事の流れや量が一定ではないので、パターンみたいなものも生まれづらい。
工場のように生産ラインがあれば、このオペレーションで仕事をすれば生産性が高いですよ、というポイントが見えやすいと思うのですが、ホワイトカラーのオフィスにおいては、そうしたパフォーマンスが定義されていることも少ないですし。
もっと言うと、そんな中で実際の行動量をベースに分析をするというのは、類例のないことでした。やっぱりアンケートやインタビュー調査で終わることが多いので。しっかりとした行動観察をして結論を導き出すというのはわれわれが研究対象にしている経営科学のベーシックと言いますか、本質に近いところだと思うんですね。
トリノ・ガーデンさんと組むことで、そのベーシックからちゃんと結論にたどり着けたのは成果の一つでした。
── 結論は当初の想定とはかけ離れたものでしたね。
稲水さん:当初は、オフィスをフリーアドレス制にすることによって、働く人たちが闊達(かったつ)にコミュニケーションをとれる環境になるだろうと想定していたわけですが、蓋を開けると想定していた仮説とは少し違う結果になっていましたね。
単純なものではなかったですが、勤続年数や職位や職能などの属性と行動の変化を細かく分解することによって、新たな発見がありとても面白い結果でしたね。
ただこれも、膨大な行動データを取ってもらって議論を重ね、そこから結果的にネットワーク分析に発展させることができ、分析の切り口としては、ブレイクスルーにつながったのではないかと思っています。
あれがもしアンケート調査で終わっていたら、この結果にはなっていなかったと思います。実際の行動量や行動分解をベースにしていたからこそ、誰も想定していなかった事実が浮き彫りになったと言えるのかもしれません。