現場の創意工夫だけに頼り切る姿勢からの脱却を図る
── 当社のサービスの最初の印象は?
濵口さん:実ははじめは、社内で何かオペレーションに課題があって分析依頼をした、というよりも、テレビや外食経営誌上で、トリノ・ガーデンさんの社名を目にする機会がすごく増えたことがきっかけで、お声がけさせていただいたんです。
「外食企業の秘密兵器」との異名もお持ちで、「ものすごい会社があるらしい」と社内で評判になって。経営陣も「おもしろそうだ!」と前向きでした。
そもそも当社はラーメン店として、味がものすごく尖っているわけではなく、老若男女、幅広い層のお客さまに長く楽しんでいただくというブランドイメージがありまして。
その一方で、接客でどう他店と差別化を図るか、ということに力点を置いていたんです。たとえば雨の日に傘を差してお客さまをお出迎えしたり、タオルをご用意したり、ラーメン店ではあり得ないサービスで付加価値をご提供してきたという自負がありました。そして、それは最初からマニュアルとして存在したわけじゃなく、各店の店長たちの創意工夫で成り立ってきた歴史であり、文化がありました。
ですから、オペレーション分析のご提案を現場責任者たちにプレゼンテーションしていただいたのですが、その場にいた店長ら現場のスタッフは、正直なところネガティブな印象を持つ者も多かったですね。
過去にトリノ・ガーデンさんが手がけた他社の事例を見ても、
「いや、うちでは当てはまらないと思います」「うちは(他社とは違うから)こんな結果は出ない」と後ろ向きでしたね。。
店長からしてみれば、マニュアルで補いきれない部分を自分らの創意工夫で補填しているわけで、そこが動画にされて、可視化されるということの気恥ずかしさみたいなものがあったのではないかなと思います。
とはいえ、100店舗到達を目前にして、もっと大きなチェーンをめざすうえでそうした現場の創意工夫だけに頼りきってしまうというスタンスが、教育的に足枷になってしまうのでは、という不安もありました。そこでマニュアルのブラッシュアップやオペレーションの可視化や、その先にある標準化していかなくては、という社内の気運が、トリノ・ガーデンさんにお声がけするに至った背景にはあったのだと思います。
数字的裏付けにより現場に芽生えた「自信」と「納得」
── 実際分析が始まってからの印象は?
濵口さん:社内の声はどんどんプラスに転じていった感じですね。
分析していただいたことで、各店のその創意工夫が間違っていなかったということが数字で証明されたことが多かったので、現場からは否定的な印象がなくなって、むしろ自分たちのオペレーションに自信を持つようになっていったんです。
肌感覚でやっていたことに対して、数字で裏付けをしてもらって、それが彼らの自信につながったようで。やっぱり数字的根拠があると、指導する側は自信がつくし、される側も納得感が違いますよね。
この数値化、というのが一つの大きなキーワードのように思います。
たとえばラーメン一杯にしても「できるだけ早くご提供しよう」という意識はスタッフたちに浸透していますが、その提供速度をレコーダーやタイマーで測るといったようなシステマチックな取り組みをしてこなかったんですね。
この部分を今回トリノ・ガーデンさんにことごとく可視化していただいたことは大きな財産だったと思います。
もともと社内には、いろんなことを感覚値でやっていたために数値化、言語化が不得意な風潮が残っていて、もっと会社を大きくするにはこの部分を変えないといけないんだということが課題としてあったんです。
トリノ・ガーデンさんには「オペレーションを数字で語れるようにするために、形容詞・副詞の表現を極力なくしましょう」とご指示いただいたりもして。
今までいかに、「しっかりと」とか「ちゃんと」といった副詞(形容詞)で曖昧な指示をしていたかということに気がつきました。
今はこれらの曖昧な程度を表す言葉を、数字に置き換えていくという作業に取り組んでいますがなかなか難しいですね。でもこうしたアクションにつながったということ自体がそもそも大きな成果です。
あとは、中谷社長に教えていただいた、「人間の記憶は15秒後には90%が忘れ去られる」という言葉、毎回の店長会議の際にみんなに伝えています(笑)。
「私の発言はこの長い会議の中できっと忘れ去られる。だから皆さん、メモを取りましょう」と。それで大体みんな、ペンを手に取ってくれるんです(笑)。
課題設定から任せきりにできる安心感と実行力
── 逆に分析の中で、当社側のサービスにおける改善の余地などはありましたか?
濵口さん:トリノ・ガーデンさん側というよりも、今回プロジェクトのスタート地点で、当社側は細かく課題設定ができておらず、丸投げしてしまった部分があったので、そこをもう少し課題を絞った上で、細切れに進捗管理、共有し合えるような進め方をできていれば、とは思いましたね。
課題の炙り出しから改善策の提案、現場への浸透までをまるっきりお任せしてしまうと、それは当然時間もかかるし、当然ではありますがランニングコストもかかりますから。
とはいえ、課題が漠然としていたとしても、任せ切れる信頼感があったので、その意味では逆に委ねたことが良かったのかもしれません。
われわれが認識している課題が、本当の課題であるとは限らないので、現に8ヵ月に渡る分析プロジェクトの最後に、中谷社長から200枚を超える分析スライドでの総括をいただいて、現場も目に見える形で変わって、という結果が出たので、経営陣は完全に心動かされていましたね(笑)。
トリノ・ガーデンさんは、いわゆるわれわれが思い描く「コンサル」という立場ではないと、最初からおっしゃっていましたが、本当にそうだったな、と。
現場も最初はネガティブイメージからのスタートだったわけですけど、マイナス面の指摘だけでなく、伸びしろを教えてくれて、それが現場に浸透するまでをサポートしてくれるから、とても心強かったと思います。
これはわれわれだけではできないことでした。