一つのタスクに要する時間、かかった時間を可視化し効率アップ
── われわれのプロジェクトに取り組んだ印象はいかがでしたか?
中村さん:最初のプロジェクトは、トリノ・ガーデンさんが分析した結果を私たちが聞いて実践するというものだったんですが、直近で参加したプロジェクトは、僕たち AM、要は本部側スタッフの生産性改善を目的としたものでした。具体的には、 AM としての「型」となる仕事の仕方を定義し、トレーニングするプロジェクトでしたが、歴代の AM は、思い思いの方法で店舗のマネジメントを行っていて、私自身も AM として何をすればよいのか手探りで模索する日々が続いていました。
まずはスプレッドシートに業務内容を前もって書き出して、各業務にそれぞれどれくらい時間を要しそうか、そして実際どれくらい時間がかかったか、というタスク管理を実施しました。一つひとつの業務を時間によって数値化することで、効率改善という点ではとても効果を実感できたので、これは続けていきたいと思います。
たとえば当初 180 分もかかっていた動画編集作業が 20 分で終えることができて、なんと 160 分も作業時間短縮ができたりして。それまで感覚的に捉えていた作業に要する時間が、分数として具体的に可視化できたことで、「浮いた時間をスキルアップのために使おう」とさらに有効活用できるようになりました。
プロジェクトの後半は、店舗に設置されたクラウドカメラを AM がどのように活用すれば、生産性が改善するかというものでした。
AM というのは突き詰めれば各店舗の売上げや生産性アップを目的に、本部と各店舗の橋渡しとなって動く役割があります。従来は臨店( AM が各店舗を訪問すること)して現場を見ることで、何か気づいたことを、その場でフィードバックとして伝えていたのですが、トリノ・ガーデンさんにクラウドカメラを入れていただき活用方法をレクチャーしてもらうことで、各店舗への臨店と同じかそれ以上の効果をカメラを使って行うことができました。
クラウドカメラで何を見て何をフィードバックするかで、現場の印象は 180 度変わる
── とはいえ、現場のスタッフにはカメラで働きぶりを録画されることに対し、 現場の抵抗感は、無かったですか?
中村さん:カメラでの録画を、「監視」と捉えて抵抗感を覚えるか、「見守り」と捉えて成長の機会に変えてくれるかは、スタッフ一人ひとりに対するわれわれ AM の言葉のかけ方次第で変わると思うんです。
これは、AM の仕事の「型」として、どのような「AM 像」を目指すかということと関係するんですが、オーケストラの指揮者のような「指導者」として AM をイメージすると、監視と捉えられるのかもしれません。しかしわたしたちが目指している AM 像としては、駅伝マラソンで「1 km 3 分ペースだよ」とランナーに教える伴走カー、つまり「伴走者」としての役割なので、お店のスタッフからは応援してくれる人、今の巡航速度でいいのかを定量的に教えてくれる人という風に認識されていると思うんですよね。
たとえば、クラウドカメラで録画された動画を見て、「このタイミングのバッシング遅いよね」「なんですぐにテーブルにいかなかったの?」と駄目だしや尋問のような、ネガティブな指摘ばかりしていては、スタッフ側は「監視されている」と感じて、当然いい気はしません。そうではなく、少しでもいいところを見つけて、たとえば「この料理、前は両手で運んでたけど、最近は片手で運べるようになりましたね」というように、成長にフォーカスして フィードバックをするよう心がけています。
結局、P/L (損益計算書)や POS レジのデータは、結果でしかお店が評価できていないと、 POS レジの結果すぐに繋がりにくい、ぬくもりある接客やスタッフへの思いやりが蔑ろになってしまうと思うんですよね。特に、外部環境の変化が大きかった最近は、結果が出るまでは、強い忍耐や精神力が必要で、頑張っても結果に繋がらないことが多かったと思います。
そうなると店長やスタッフも途中で挫折したり、献身的な工夫も続かなくなってしまうんですが、結果が出る前のフェーズ、スタッフの献身や工夫を AM が照らしてあげることが出来ると、どんどん店舗で工夫や努力を継続してくれるようになってくれて、クラウドカメラで成長を録画、比較しながら伝えるっていうのは本当に助かっています。「駄目出しではなく、成長ポイントを探して伝えてあげる」 これはトリノ・ガーデンさんに何度もレクチャー頂いたのと、私自身も体験して、本当にそうだなと思っていて、最近では、新任の AM の研修や教育でも伝えています。
個人の感覚を排して映像をもとにした客観ベースでフィードバック
── カメラを入れ、フィードバックを実施したことによって実際現場は変わりましたか?
中村さん:人はこんなに変わるのか、というくらい変わりましたね(笑)。 たとえばよくあるのが、臨店して「このピークタイム、シフト 2 人体制だったけどオペレーション大丈夫?」と店長に聞くじゃないですか。すると「全然余裕でしたよ」と返ってくるわけです。でもこれは店長自身の体感でしかなくて、実際の料理の提供時間は何分なのか、それによってお客さまはどんな印象を覚えたか、というところは見えていない。 従来なら、僕が臨店して店舗を見た感想として「提供時間が遅かったよ」と店長に伝えるわけですが、そうなるとお互いが自分の感覚で話すことになるので、店長としても「そうは言 ってもこっちは頑張ってるのに!」と聞き入れ難いですよね。 これが、カメラの映像を二人で確認して、客観的事実として「ここで何分ロスしているね」ということが言えるようになると、同じ指摘の内容であったとしても、店長の納得度は全然違ってくるんです。
現にカメラの導入によって、彼らの行動スピードが格段に早くなりました。たとえばお客様が食事が終わってテーブルを片付けに向かう時の歩行速度。カメラを導入して、具体的なフィードバックを頻繁にするようになったことで、スタッフが、お客様の離席後の第 1 歩目からテーブルまでの歩行速度が右肩上がりに早まっていったんです。これには驚きました。
本部と現場(店舗)ではどうしても距離が生まれてしまい、同じチームの仲間だという認識が薄れてしまいがちなのですが、カメラの映像という共通認識をベースに話ができるようになることで、同じ目線で「伴走」しているんだという認識が、現場にも、本部サイドにも生まれた結果だと思います。
映像をもとにフィードバック内容をすり合わせ。AM のスキル向上に
── 現場だけでなく、本部サイドに変化はありましたか?
中村さん:変化というか体感としては 2 つあって、単純なところでいうと、臨店のために要していた時間がカメラの導入で短縮できたところでしょうか。僕自身は郊外の店舗を複数統括しているため、これらの移動時間が短縮できたのは大きいです。さらに、臨店先では、オペレーションを何時間もかけて自分の目で見て、そこでの所感をフィードバックとして店長に伝えていたのですが、カメラを導入したことでこの数時間はカットできますよね。 もっといえば、AM が来ている時の店舗と、普段の店舗とは様子が違うはず。カメラを入れていることで、いわば「素の店舗」がいつでも見れるようになって、そこに対してフィードバックをできるようになったのはありがたいですね。
もう一つ重要な効果として、AM のスキルアップが上げられます。 今回のプロジェクトの目的は、現場ではなくわれわれ AM の生産性改善だったので、クラウドカメラで録画した動画を AM 同士で見て、各々気づきを共有するというレビュー会議をするようにトリノ・ガーデンさんからご提案がありました。実際にレビューをしてみると、AM の中でも見ているところや指摘の仕方に違いがあることが見えてきて。「ある人はネガティブなところばかり気づいている」「ある人はポジティブなところを見ているけど主観的な感想だ」といった、各々の違いが可視化できるようになったことで、この違いを是正して、足並みを揃えるようにすり合わせることができるようになったんです。こうしてただ録画して終わり、ではなく効果的な PDCA サイクルの回し方を指南いただいたことによって、われわれ AM にとってもの成長の機会になりましたね。